2013年01月21日
三好春樹氏講演レポ(1)
<三好春樹氏講演レポ(1)>オムツ外しこそが生活介護の原点
(ケアマネジメントオンライン 2013/01/04 11:00 配信)
12月12日、老人介護の全国研修会「オムツ外し学会2012」が東京都内にて開催され、介護の専門家や医師による老人介護やターミナルケアをテーマにした講演が行われた。
オムツ外し学会は、「オムツ外しこそが生活介護の原点」という考えのもと、「生活とリハビリ研究所」代表で理学療法士の三好春樹氏が呼びかけ人となってスタートした。三好氏の講演から、学会の基調講演ともいうべき「新しい介護はオムツ外しから始まった」を紹介する。
講演では、オムツ外しの実践者である三好氏の体験を通し、その方法論とオムツ外しを可能にした介護者としての三好氏の思想が語られた。
38年前に特養に勤務し、介護の仕事をスタートさせた三好氏。当初は当たり前のことだと思っていたオムツについて疑問を持つきっかけとなったのが、5日間の検査入院中にオムツをつけられ、施設に帰ってきた時はオムツがぬれていることもわからない状態になっていた78歳の女性だった。
その女性は、夜中にトイレに行こうとして高いベッドから落ちたことをきっかけに、「ひとりでトイレに行けない人はオムツをする」という病院の方針のもと、強制的におむつをつけられることに。オムツがぬれたことを看護師に申し出ると、「まだオムツ交換の時間ではないから」と拒否される。そうした「環境」の中、たった5日で尿意もおむつがぬれている感覚もなくしてしまったのだという。
「尿意がわからないのは膀胱の感覚障害、ぬれているかどうかわからないのは皮膚の感覚障害です。脳卒中で片マヒになってもパーキンソン病でも感覚障害は伴わない。認知症もこれが尿意だという感覚の識別はなくなっても、感覚自体はなくなりません。彼女は何の病気もないのになぜ感覚をなくしたのか。解剖学ではまったく説明がつかないことです」
三好氏は、その理由を探して教育や思想関係の本を読む中で、「人間は環境に適応してしまうもの」ということに気づいた。
「その女性が尿意の感覚をなくしたのは、尿意を訴えるといやな顔をされ、忙しい看護師に迷惑をかけると思ったからです。そのように貧しい介護状況で、下半身の感覚を忘れることで自らを適応させたとしか考えられない。心理的に尿意を拒否しているものを治すにはどうするか。環境で生じたものは環境で治すしかありません」。
三好氏が行ったのは、病院でオムツをつけられ、外せなくなったプロセスと逆の方法。「オムツがぬれている気がしたら教えて」と言い、伝えたらほめる。それを繰り返しているうちに、「ぬれている」という感覚が戻ってくる。おむつを変えて気持ちがよくなることを実感できるようになると、次は「出たらすぐに教えてね」、その次は「出そうだなと思ったら教えてね」。そのチャンスを逃さずポータブルトイレに座らせると、「じゃーっと音を立てておしっこが出たんです」。三好氏は、この取り組みを「オムツ外しのための尿意回復ステージ」という介護技術に高め、著作や講習会で伝えている。
排便コントロールについても理論と実践の両面から説明がなされた。
「『排泄ケアをちゃんとやっている』『うちは便秘をつくっていない』という施設を実際に見てみると、そこでやっていたのは下剤・浣腸・摘便です。下剤・浣腸は日常的にやることではない。摘便は物理的なやり方で、そうではなく生理を考えないといけない。自分の力で排便するための条件を考えないといけないんです」
三好氏が行ったのは、以下の方法だ。排便は直腸を収縮して行うが、自分ではできなくなっているので、まわりを押すことで刺激を与える。次に座位で前屈みになる排便姿勢を教え、直腸が反射して便意を感じたら便器に座らせる。
「便意を感じたら、たとえ食事ケアのときでもトイレに連れていきます。反射起こしているタイミングを逃さないことが大事。排便だけは『ちょっと待ってね』はダメです」

また、排便に最も適したタイミングを知っておくことも大事で、排便反射は1日3回の食後に起きる可能性があるが、排泄や消化吸収は副交感神経が支配するので、交感神経が目覚めていない朝ごはんの後がベスト。「朝トイレ行きたくなるという当たり前のことをやるのですが、こうした知識を医師も看護師も介護現場で使おうとしないんです」。
これらの取り組みを行ない、三好氏のいた施設で、昼間オムツを外すことができなかった人はひとりだけで、
「オムツ歴が長いこと、認知症が『深い』(三好氏は、認知症の程度を弱い・強いとは言わない)こと、この2つが重なっている人はむずかしい。認知症が深くてもオムツをしていた期間が短い人は外すことができます」。
オムツが外れた人は皆目が輝き出し、生き生きとしてくるという。
「その姿を見るのは介護職にとって本当にうれしいものです。生きているから食べて出す、それをよろこんでくれる人がいる。それがいい介護関係になるのです」。
◎生活とリハビリ研究所
(ケアマネジメントオンライン 2013/01/04 11:00 配信)
12月12日、老人介護の全国研修会「オムツ外し学会2012」が東京都内にて開催され、介護の専門家や医師による老人介護やターミナルケアをテーマにした講演が行われた。
オムツ外し学会は、「オムツ外しこそが生活介護の原点」という考えのもと、「生活とリハビリ研究所」代表で理学療法士の三好春樹氏が呼びかけ人となってスタートした。三好氏の講演から、学会の基調講演ともいうべき「新しい介護はオムツ外しから始まった」を紹介する。
講演では、オムツ外しの実践者である三好氏の体験を通し、その方法論とオムツ外しを可能にした介護者としての三好氏の思想が語られた。
38年前に特養に勤務し、介護の仕事をスタートさせた三好氏。当初は当たり前のことだと思っていたオムツについて疑問を持つきっかけとなったのが、5日間の検査入院中にオムツをつけられ、施設に帰ってきた時はオムツがぬれていることもわからない状態になっていた78歳の女性だった。
その女性は、夜中にトイレに行こうとして高いベッドから落ちたことをきっかけに、「ひとりでトイレに行けない人はオムツをする」という病院の方針のもと、強制的におむつをつけられることに。オムツがぬれたことを看護師に申し出ると、「まだオムツ交換の時間ではないから」と拒否される。そうした「環境」の中、たった5日で尿意もおむつがぬれている感覚もなくしてしまったのだという。
「尿意がわからないのは膀胱の感覚障害、ぬれているかどうかわからないのは皮膚の感覚障害です。脳卒中で片マヒになってもパーキンソン病でも感覚障害は伴わない。認知症もこれが尿意だという感覚の識別はなくなっても、感覚自体はなくなりません。彼女は何の病気もないのになぜ感覚をなくしたのか。解剖学ではまったく説明がつかないことです」
三好氏は、その理由を探して教育や思想関係の本を読む中で、「人間は環境に適応してしまうもの」ということに気づいた。
「その女性が尿意の感覚をなくしたのは、尿意を訴えるといやな顔をされ、忙しい看護師に迷惑をかけると思ったからです。そのように貧しい介護状況で、下半身の感覚を忘れることで自らを適応させたとしか考えられない。心理的に尿意を拒否しているものを治すにはどうするか。環境で生じたものは環境で治すしかありません」。
三好氏が行ったのは、病院でオムツをつけられ、外せなくなったプロセスと逆の方法。「オムツがぬれている気がしたら教えて」と言い、伝えたらほめる。それを繰り返しているうちに、「ぬれている」という感覚が戻ってくる。おむつを変えて気持ちがよくなることを実感できるようになると、次は「出たらすぐに教えてね」、その次は「出そうだなと思ったら教えてね」。そのチャンスを逃さずポータブルトイレに座らせると、「じゃーっと音を立てておしっこが出たんです」。三好氏は、この取り組みを「オムツ外しのための尿意回復ステージ」という介護技術に高め、著作や講習会で伝えている。
排便コントロールについても理論と実践の両面から説明がなされた。
「『排泄ケアをちゃんとやっている』『うちは便秘をつくっていない』という施設を実際に見てみると、そこでやっていたのは下剤・浣腸・摘便です。下剤・浣腸は日常的にやることではない。摘便は物理的なやり方で、そうではなく生理を考えないといけない。自分の力で排便するための条件を考えないといけないんです」
三好氏が行ったのは、以下の方法だ。排便は直腸を収縮して行うが、自分ではできなくなっているので、まわりを押すことで刺激を与える。次に座位で前屈みになる排便姿勢を教え、直腸が反射して便意を感じたら便器に座らせる。
「便意を感じたら、たとえ食事ケアのときでもトイレに連れていきます。反射起こしているタイミングを逃さないことが大事。排便だけは『ちょっと待ってね』はダメです」

また、排便に最も適したタイミングを知っておくことも大事で、排便反射は1日3回の食後に起きる可能性があるが、排泄や消化吸収は副交感神経が支配するので、交感神経が目覚めていない朝ごはんの後がベスト。「朝トイレ行きたくなるという当たり前のことをやるのですが、こうした知識を医師も看護師も介護現場で使おうとしないんです」。
これらの取り組みを行ない、三好氏のいた施設で、昼間オムツを外すことができなかった人はひとりだけで、
「オムツ歴が長いこと、認知症が『深い』(三好氏は、認知症の程度を弱い・強いとは言わない)こと、この2つが重なっている人はむずかしい。認知症が深くてもオムツをしていた期間が短い人は外すことができます」。
オムツが外れた人は皆目が輝き出し、生き生きとしてくるという。
「その姿を見るのは介護職にとって本当にうれしいものです。生きているから食べて出す、それをよろこんでくれる人がいる。それがいい介護関係になるのです」。
◎生活とリハビリ研究所
