不安あおる「介護保険」広告を疑ってみよう

ふくえん

2012年12月25日 13:11

(日本経済新聞 電子版 2012/12/14 7:00)

この手の広告は不安をあおることが目的化していないだろうか――。保険会社の「介護保険」広告に接するたび、私はこんな疑問を抱きます。典型的なパターンは

(1)超高齢化社会、介護は他人事ではありません

(2)要介護等の認定者は10年間で2倍以上に増えています

(3)介護期間は長期にわたることもあります

(4)経済的にも大きな負担がかかります

(5)そこで「介護保険」です

――といった内容です。それぞれ冷静に分析すれば、必ずしもうのみにできないことが分かると思います。

 まず(1)は「がん保険」などでも用いられる話法です。身近な問題であることを認識させ、「いまのうちに保険加入を」ということなのでしょう。

 しかし、そもそも保険は誰にとっても「他人事でないと思われるリスク」に備えることには向いていません。若くて健康な人が一定期間、死亡保障を持つような場合は、保険金支払いの確率が低いため安い保険料で大きな保障を得ることができます。しかし逆の場合は、保険料と保険金の額が近づいていくばかりです。私は「他人事ではありません」から始まる広告は基本的に怪しい、と認識しています。

 次に(2)は、厚生労働省の「介護保険事業状況報告(暫定)」2010年4月分で試算されたデータから言われていることです。確かに、2000年以降の10年で要介護認定者は2倍以上に増えています

ただし、そこに「2000年4月に公的介護保険制度が導入されているので、制度の普及に伴い、要介護認定者が急増した10年とみることもできそうだ」と加えなくていいのでしょうか?

 実際、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2012年1月推計)という報告書には「老年人口自体の増加は平成32年(2020年)頃より減速し……」という記述もあります。すると「この10年は、ある意味特別な10年であって、今後は老年人口増加の減速とともに、要介護認定者の増え方も減速していく」とみるほうが自然な気がします。

 さらに、(3)の介護期間が長引く可能性と(4)の経済的負担の大きさに関しては、保険料負担との比較抜きに語れないはずです。例えば、介護施設利用料が年間100万~600万円だということで年額300万円を保険で準備する場合、国内生命保険会社の保険で50歳女性が60歳までに保険料を払い込むことにすると、月払い保険料は12万円を超えます。

 しかも(2)で対象とされている要介護認定者とは要支援1~要介護5までの人のことですが、民間の保険から保険金が支払われるのは要介護2以上からである場合も少なくありません

 厚生労働省の2010年度「介護保険事業状況報告書」で確認すると、公的介護保険制度の対象になっている65歳以上の人の数は同年度末現在で2909万8000人。そのうち要介護2以上の認定者は272万5000人で、割合にすると10人に1人未満です。40歳から65歳未満の第2号保険者で要介護2以上の人も9万8000人いますが、同じ年齢層の人口4344万2000人(統計局「人口推計」2010年10月1日現在)に占める割合は500人に1人強です。

保険会社のパンフレットにある「65歳以上の約6.1人に1人、75歳以上の約3.3人に1人が要介護等と認定されています」といった記述はウソではないでしょう。しかし、先のような数字を踏まえると、民間の介護保険が役に立つのは10人に1人未満とみることもできそうなのです

 これはこれで、10人中10人が保険金支払いの対象になるよりは保険として機能しそうな数字です。私は、保険の広告では何より「具体的に保険が役に立つ可能性」を知りたいと思います。



※野口悠紀雄「消費増税では財政再建できない」(ダイヤモンド社)、清水香「本当に安心な『保険の選び方・見直し方』」(講談社)を参考にしました。




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