社説:介護給付の抑制 市町村支援きめ細かく

ふくえん

2013年11月02日 08:30

(毎日新聞 2013年11月01日 02時35分)

 厚生労働省は介護保険の「要支援」サービスを市町村事業に移行させ、将来的には国が介護事業に支出する給付費に上限を設けることを検討している。現場からは「サービスを減らすとむしろ重度化を招く」との批判も聞かれる。どうやってケアの質や量を保ちながら財政の膨張に歯止めを掛けられるのか、具体的なモデル像の提示やきめ細かい市町村支援を政府に求めたい。

 現在約9兆円の介護給付費はこのままでは2025年度には21兆円に膨らむ。要支援サービスを市町村に移しても「財源は介護保険であり、要支援の認定も変わらない」と同省は説明するが、市町村がサービスの内容や単価を独自に決められるようにして給付増の制御を図るのが改革の目的だ。しかも同省は要支援サービス事業費の伸び率(現在は年5〜6%)の上限を75歳以上の人口の増加率(同3〜4%)に合わせる案を検討しており、これを実施すると25年度の給付費は本来より2割減る。不安が広がるのも無理はない。

 一方、現在の要支援サービスは買い物や室内の清掃、洗濯、入浴介助がほとんどで、「家政婦代わりにヘルパーを使っている」などの批判もある。独居で身体機能の衰えたお年寄りには切実なサービスであるに違いないが、高福祉で知られる北欧諸国でも近年は医療や介護の公的サービスを抑制し、お年寄りが自力で生活し続けられるような指導、家族や近隣の人々による支え合いを重視する政策へと傾斜している

 財政のためだけではない。医師や介護士などの専門職に依存するよりも、お年寄りが自らの健康や介護について考え、親しい人間関係の中で支え合って生活することを望む人が増えているからでもある。日本でも高齢化率が非常に高い集落で公的介護サービスを利用せず住民同士が支え合っている例はたくさんある。

 市町村に事業を移行すると地域格差が広がるとも言われる。先駆的な自治体の実践を集め、モデル事業として広めてはどうだろう。新潟県長岡市は独居の高齢者宅の雪かきや買い物の付き添いを若くて体力のある知的障害者らに委託している。福岡県久留米市でも高齢者宅の庭の草むしりや棚の奥の掃除などを長期入院から退院してきた精神障害者がボランティアで担っている。専門職による介護はなくても、「ありがとう」の声が行き交う助け合いが地域の人間関係を温かいものにしている。

 新たな生活困窮者の支援事業の中でも要支援サービスを補う活動を盛り込むことができるはずだ。市町村任せではなく、お年寄りが安心できるよう政府が率先して市町村の指導・支援に乗り出すことが必要だ

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