担当官が語る「介護保険を取り囲む4つの問題」

ふくえん

2013年06月24日 08:30

<セミナールポ1>担当官が語る「介護保険を取り囲む4つの問題」
(CMO 2013/06/17 09:00 配信)

一般社団法人全国介護事業者協議会は、5月25日、東京都内にて全国研修会を開催し、厚生労働省老健局振興課長の朝川知昭氏が「地域包括ケアシステムの構築について」と題した講演を行った。

冒頭、2015年の介護保険法改正に向けた政策形成の動きについての説明があった。現在、介護保険制度の課題や政策については、先日の「軽度者の介護保険外し」報道で注目を集めた社会保障制度改革国民会議と社会保障審議会介護保険部会で議論されている。
「国民会議は8月まで行われ、そこでの議論形成を受けて秋以降は介護保険部会が中心に議論し、政策が固まっていくことになります。最近、国民会議の一部の意見を踏まえた新聞記事が出ていますが、現時点で決まっていることはありません」と朝川氏。講演は、「本日は、秋以降の議論で話題になりうることをお話ししたい」との前置きで始まった。

■介護保険をとりまく4つの問題――都市部の急速な高齢化を懸念
介護保険をとりまく課題に、急速な高齢化――65歳以上高齢者・75歳以上高齢者の増加、認知症高齢者の増加、65歳以上の単独世帯や夫婦のみ世帯の増加があるのはすでに知られているが、この日、朝川氏が主に言及したのが都市部、なかでも首都圏での75歳以上高齢者の増加。5月に行なわれた厚労省の会議「都市部の高齢化対策に関する検討会」にて明らかにされ、マスコミ報道でも取り上げられている。

すでに高齢化率が高い地方と都市部では問題が違っており、政策的に悩ましいのは都市部の急速な高齢化で、これまでに経験したことがない課題です。埼玉県を例にとると今後10年間で75歳以上の高齢者人口は2倍になりますが、埼玉は医療従事者の数が多くなく、在宅医療・介護の担い手も多くないと認識しています」

朝川氏によると、西日本に比べて東日本では押しなべて医療・介護のサービスが少なく、とくに関東でその傾向が強いとのこと。「今後の10年で十分なサービスを作り出していけるかどうかは大変大きな課題です」。

介護保険料の水準については、2025年に8,200円という推定を示し、「負担していただけるかという課題がある」と率直に語り、給付の重点化・効率化を地域包括ケアのサービス体制の充実とあわせて考えていくことの必要性を強調。さらに、急性期以外の患者は医療ではなく在宅へという動きの中で、医療を必要とする在宅の要介護者が増えることが予想され、「在宅でサービスを受ける時に医療との連携を意識した取り組みがますます必要になる」と語った。



■周知の強化が求められる定期巡回・随時対応サービス
住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供することで、要介護状態になっても住み慣れた地域で暮らすことを目指す地域包括ケアシステム。実現にはさまざまな課題があるが、今後政策的に力を入れていかなくてはならないものとして、朝川氏があげたのが定期巡回・随時対応サービスと小規模多機能型居宅介護

定期巡回・随時対応サービスに力を入れる理由として、比較的長時間滞在し、毎日訪問するとは限らない従来型のホームヘルプサービスは、「ひとり暮らしや高齢者のみ世帯、しかも重度の人を支えるには少しむずかしい」のに対し、定期巡回・随時対応は「1回の滞在時間は短くても、生活のリズムに沿って頻回するサービスで、訪問看護も組み合わせることもできるのが利点」と説明した。また、参入事業者からの報告として、頻回することで3回の食事をきちんととるようになった、薬の飲み忘れがなくなったなど、軽度の人にも有効なサービスであるとのアピールも。

定期巡回・随時対応サービスは、参入する保険者・事業者が伸び悩んでおり、平成24年度は保険者・事業者ともに計画よりかなり下回ったことについては、実際とは異なる夜間訪問が多いなどのイメージの払拭に努めるとともに、「毎日複数回訪問することで利用者の生活全体の状況が見え、事業者にとっても有効なサービスであることを市町村や事業者、ケアマネジャーに対して周知する活動を強化していきたい」と語った。

■生活支援の場としても期待される小規模多機能
平成18年に導入されたサービス小規模多機能型居宅介護は、通いを中心に訪問と泊まりをひとつの事業所で行うことで、要介護者の状態に合わせたサービスを柔軟に提供できるのが特徴。事業者数は現在4,000近く、サービス提供量は着実に増えているそう。

「認知症の人も含めて要介護者の生活全般を支えることができるのがこのサービスです。2025年には40万人が利用すると推定され、まだまだ目標の数に到達していない。今後ひとり暮らしの高齢者・認知症の高齢者が増えていくなかで定期巡回・随時対応とともに増やしていかなければならないと認識しています」

また、小規模多機能の特徴として、地域の人も参加しての運営推進会議を定期的に開催することをあげ、地域との交流や登録者以外の高齢者との交流や支え合いが可能であり、市町村によってはほかの事業と組み合わせてサロン活動を行っていると語り、「小規模多機能を拠点にして、生活支援や地域づくりを増やしていくことができるといい」とこのサービスへの期待を語った。

さらに、通い・訪問・宿泊をセットにした小規模多機能は提供する側にとってやりがいがある一方、大変なサービスであるとの認識を示し、ほとんど訪問しない事業所の噂も聞こえてくるなどサービスの質の確保を考える時期にあることにも言及した。
◎全国介護事業者協議会
http://minkaikyo.info/


【CMO編集部 土倉】

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